「最近どう?」と聞かれて、「うーん、まあ」としか返せないことがあります。
辞めたいわけではありません。今の仕事が嫌いというわけでもない。ただ、このままでいいのかと言われると、いいとも思えない。そして「何が嫌なの?」と聞き返されると、答えに詰まります。
嫌なことが無いわけではないはずなのに、一言にならない。無理に言葉にすると、なんだか大げさになるか、逆に小さすぎる話になる。どちらも自分の感じていることとは違う気がして、結局「まあ、大丈夫」と言ってしまう。
こういう状態を、ここでは仕事のモヤモヤと呼ぶことにします。人に相談するほどのことではない気がして、でも一人で考えていても同じところを回ってしまう。そういうときに、最初に置いてみる問いを 3 つ用意しました。答えを出すための問いではありません。モヤモヤを、扱える大きさに分けるための問いです。
モヤモヤが消えないのは、消そうとしているから
モヤモヤを何とかしようとするとき、たいてい最初にやるのは「消す」ことです。気にしないようにする。忙しくして考えないようにする。あるいは、ものの見方を変えて前向きに捉え直そうとする。
それで軽くなることもあります。けれど、何度やっても戻ってくるモヤモヤがあります。消したはずなのに、日曜の夜になるとまた同じ重さで座っている。
戻ってくるのは、そのモヤモヤがひとつではないからだと考えています。
たとえば、仕事量と評価が釣り合っていない感覚。上司との関係で言いたいことを飲み込んでいること。数年後の自分の姿が、今の延長線上に見えないこと。ひとつひとつは小さな引っかかりでも、重なると「なんとなく重い」という一つの塊になります。塊のまま消そうとしても、中身が複数あるので、どれかが残ってまた戻ってくる。
そしてもう一つ、この塊の中では、起きた出来事と、それをどう感じたかが混ざっています。
「上司のせいで最悪」という言葉には、実際に起きたこと(何を言われたか、何が起きたか)と、それをどう受け取ったか(軽く扱われた気がする、見られていない気がする)の両方が入っています。混ざったままだと、出来事のほうを変えようとしても感情が引っかかり、気持ちを整えようとしても出来事のほうが動かない。どちらにも手がつけられない。だから堂々巡りになります。
ここで「ポジティブに捉え直そう」という助言がよく出てきます。ただ、これには少し違和感があります。感情を変えようとすると、感情が伝えようとしていた中身が一緒に消えてしまうからです。「軽く扱われた気がする」という感じ方の中には、自分が何を大事にしているかの手がかりが入っています。それを前向きな言葉で塗ると、手がかりまで見えなくなる。
分けることと、変えることは違います。 モヤモヤは消すものではなく、分けるもの。分けたあとで、変えるかどうかを決めればいい。
整理の軸:3 つの問い
紙でもスマホのメモでも、頭の中でも構いません。いま引っかかっていることを一つ取り上げて、次の順番で問いを置いてみてください。
整理の軸
- 何が起きたか
- それを、どう感じたか
- 変えられるのは、どちらか
順番に意味があります。1 と 2 を分けてから、3 に進みます。
01 何が起きたか
まず、出来事だけを取り出します。いつ、どこで、誰が、何を言ったか。何が決まったか、何が決まらなかったか。
このとき、評価や解釈を入れないようにします。「理不尽な指摘を受けた」ではなく、「会議で、担当していない範囲についての質問を受けた」。「無視された」ではなく、「送った提案に、三日たっても返事がない」。
やってみると、意外と難しいことに気づくと思います。出来事を思い出そうとすると、感じたことが先に出てくる。それが自然です。感じたことが出てきたら、それはいったん脇に置いて、次の問いで拾います。
02 それを、どう感じたか
次に、その出来事に対して何を感じたかを、消さずに書きます。悔しかった、軽く扱われた気がした、自分だけ知らされていないように感じた。
ここでのポイントは、感情を否定しないことと、事実とは別の場所に置くことです。感じたことは、それが妥当かどうかにかかわらず、そのまま置いておいて構いません。「そんなふうに感じるのは自分が弱いからだ」と評価を始めると、また混ざります。
事実の列と、感情の列。この二つが分かれた状態を、いったん眺めてみてください。
03 変えられるのは、どちらか
分かれると、扱いが変わります。
事実のほうは、変えられるものと変えられないものに仕分けができます。相手の性格や会社の方針は動かせないかもしれない。けれど、自分の伝え方やタイミング、担当範囲の確認の仕方、関わる頻度や距離の取り方は、自分の側で動かせることが多い。
感情のほうは、消す必要はありません。ただ、判断の根拠としてどこまで採用するかを、自分で選べるようになります。「軽く扱われた気がする」を、転職を考える理由にするのか、来週の会議での言い方を変える理由にするのか。それを選ぶのは、感情が事実と分かれて初めてできることです。
混ざっているあいだは、どちらも動かせません。分かれると、どちらも少しずつ動かせるようになります。
分けると、何が変わるか
キャリアについて考える場で、よく見る変化があります。実際の話をもとに、細部を変えて書きます。
「上司のせいで最悪」という言い方で話が始まった人がいました。何が最悪なのかを聞いても、最初は「全部」という答えでした。
三つの問いに沿って分けていくと、次のようになりました。
| 問い | 分ける前 | 分けたあと |
|---|---|---|
| 何が起きたか | 上司のせいで最悪 | 週次の会議で、担当外の範囲について指摘を受けることが、ここ一か月ほど続いている |
| どう感じたか | (事実と混ざっていた) | 自分の担当範囲を把握されていない気がする。軽く扱われている気がする |
| 変えられるのは | 転職すれば全部変わる? | 担当範囲を、一度あらためて確認する場を持てるかもしれない |
答えが出たわけではありません。上司との関係が良くなったわけでもない。けれど、「転職するかどうか」という大きな問いが、「担当範囲の合意をどう取り直すか」という小さな問いに変わっています。
小さな問いには、来週試せることがあります。大きな問いには、それがありません。モヤモヤが動かなかったのは、問いが大きすぎたからでもあります。
そして、分けたあとに残った感情のほうも、消えたわけではありません。「軽く扱われている気がする」という感じ方は、その人が仕事で何を大事にしているかを教えています。それは、担当範囲の話が片づいたあとも、次の選択の材料として残ります。
一人で分けきれない部分がある
三つの問いは、一人でもできます。ただ、やってみると、自分の事実と感情は自分では分けにくいことにも気づくと思います。
一人で考えているとき、頭の中で行き来しているのは、すでに言葉になっているものだけです。まだ言葉になっていない部分には、一人だと手が届きにくい。同じところを何度も回ってしまうのは、そのためです。
キャリアについて考える場で、話しているうちに、話している側が自分で分け始める瞬間があります。「あのとき言われたのは、たしかにこういうことで……でも自分が引っかかったのは、そこじゃなくて」。そう言い出したとき、事実と感情が分かれています。誰かに整理してもらったのではなく、話しながら自分で分けている。聞く側がしているのは、分かれるのを待つことと、まだ混ざっているところを混ざったままにしておかないことくらいです。
だから、三つの問いを自分でやってみて、途中で止まってしまっても、それは失敗ではありません。止まった場所が、一人では分けにくい場所だというだけです。そこは、話しながら分けるほうが早いことがあります。
最後に一つ。三つの問いに答えても、多くの場合、その日に答えは出ません。それでいいと思っています。
何を大事にしているかが少し言葉になった。悩みがひとつではなく複数だと分かった。決められない理由が、前より見えた。この三つのどれかが起きていれば、答えが出ていなくても、その整理はうまくいっています。
急いで答えを出さなくていい。分けたものを、いったん置いておいて構いません。